不妊とは、妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間(1年間)妊娠しないものをいいます。また、子宮筋腫、体重過多、耐糖能障害などの基礎疾患は、卵胞の質、子宮内膜の状態、妊娠の成立に悪影響を及ぼし、長期間の高度生殖医療(ART 体外受精)を受けていても妊娠の成立に至ることは困難であります。これらの患者様は、冷えや浮腫、月経不順など何らかの自覚症状を伴っていることが多いです。
生殖に関わる腎機能の低下・陽気不足による冷え、臓腑の盛衰や機能の不調などを整え、個々の体質に合わせ全身の陰陽気血を調節し、新しい命を育む余力を持った健康体に仕上げることが必要になってきます。英国医師会の予備研究では、体外受精(IVF)を受ける女性が同時に鍼治療を受けると、妊娠の確率が65%高くなった結果が示されています。
今回は42歳女性の症例を報告させていただきます。不妊治療から妊娠成立までの時系列は以下となります。

本患者様に四診:問診、切診(脈診(沈渋脈)、四肢・腰・腹部の触診)と望診(舌診)により患者の「証」を判別し、週に1~2回約50分の鍼灸治療を行いました。
1.基礎体温と自覚症状の変化
初診時の11月には体温のばらつきが大きく、低温期と高温期は全く区別できないものの、鍼灸治療を継続した4カ月後には、体質変化に伴い0.3度の差が見られるようになり、移植する前の12月にも低温期の平均は36.1℃、高温期は36.4℃の0.3度の差が見られました(図2)。
初診時、冷え、月経血の凝血塊、生理痛、不正出血、肩こり、胸・腹部の張り、熟眠障害、湿疹、腰痛、疲労感など様々な症状を訴えられたが、そのなかでも、冷え、熟眠障害、湿疹などの症状が最も多く見られました。鍼灸治療開始4か月後の3月より冷えなどの自覚症状が減り、早朝覚醒以外気になる症状を訴えられなくなりました。その後鍼灸治療に伴い徐々に軽減し、周期により経血の塊や採卵時服用したホルモン剤の副作用による湿疹や胸の張りなどの症状を除き、ほぼ自覚症状なく快調に過ごしたと本患者様が表現されていました。

2.舌象の変化
初診時に、冷えや瘀血などにより青紫舌や紫斑、少苔の舌象が見られたが、鍼灸の治療で冷えや生理痛の改善と共に、舌質も徐々に明るくなり、妊娠前にはほぼ正常の淡紅舌、白苔となりました(図3)。

3.耐糖能
空腹時の血糖値は70~109mg/dl、インスリンは2~10μg/dlが正常値となり、本対象者は初診前9月の血液検査で、空腹時血糖値は正常範囲であるが、インスリン値がやや高く、インスリン抵抗性をインスリン過剰分泌で代償しているという耐糖能異常が指摘されていた。しかし、鍼灸治療や運動などの生活指導により、6月の検査で血糖値とインスリン値はそれぞれ93から84、10.3から8.0へ低下した(表3)。なお、インスリン抵抗指数(HOMA-R)は、空腹時インスリン×空腹時血糖/405の式で計算し、1.6 以下の場合は正常、2.5以上はインスリン抵抗性 6) と認められ、本対象者は初診前にHOMA-R の2.4であったものが翌年の6月に1.6へ軽減された。

4.採卵結果
体外受精を始めてからの採卵結果は図5-1で示した。2016年8月(当時37歳)の受診時と5年後の鍼灸治療開始後の採卵結果を比較すると、1回目の鍼灸治療開始前に採れた有効卵数、正常受精した卵数、胚盤胞になった胚数はそれぞれ4個、3個、2個に対して、5年後の2回目、3回目(卵胞刺激により2回目採卵時未熟したもの)の採卵では、其々5個、3個、3個 と 2個、2個、2個という結果になった(図5-1)。
また、胚盤胞になった胚は凍結保存され、その胚のgrade(G)の質1~5の順で良いものを表し、2016年の1回目の採卵ではG2が2個しか凍結保存できなかったが、鍼灸治療を開始してから卵胞誘発剤を投与し卵胞が刺激された結果、5歳の年齢を重ねているのにもかかわらず、2回目の採卵時には、G1~3はそれぞれ1個を得られ、3回目では、G1、G2がそれぞれ1個、質の良い胚盤胞が得られた。さらに、グレードを劣るG4,G5の胚盤胞が見られなかった(図5-2)。

5.妊娠成立・出産
2022年1月の周期で凍結融解胚移植が行われ、移植前日の最終確認にて内膜8㎜、移植当日に9.5mmになり、2週間後の29日に妊娠判定で妊娠が成立しました。また、妊娠中も血糖の異常、逆子および妊娠中毒症などの発症がなく順調に妊娠が継続し、9月26日に帝王切開で3518g、49.3cmの男児を出産されました。
【まとめ】
本症例は長い治療歴があり不妊因子の探索で薄い子宮内膜・肥満・耐糖能障害・子宮筋腫核手術などにより移植不成立、妊娠不成立が挙げられました。患者のBMIが25弱あり、耐糖能障害や実母に糖尿病の既往歴があることから、我々は生活指導の一環として、減重の目的で運動や食事の指導を勧めていました。
また、HOMA-Rは、早朝空腹時の血中インスリン値と空腹時血糖値から算出され、インスリン抵抗性の簡便な指標として臨床上よく使用されます。本患者の初診前の数値は2.4で、血糖の抵抗状態を示されていました。糖尿病診療ガイドライン2016によると、高値が長期間続くと器官形成期(妊娠4〜8週)の血糖コントロールが悪いほど先天奇形及び流産の頻度が増加するという報告があり、本患者は空腹時血糖値やインスリン値、HOMA-Rは境界値にあるため、レディースクリニックでは、移植できないと判断され、鍼灸の治療を勧められた経緯がありました。
鍼灸治療は子宮の血流に影響を与えると報告されており、本患者は、2回の子宮筋腫核出術により子宮の所見不良がみられ、子宮内膜は薄く移植できる8mm以上の厚さまで至りませんでした。しかし、鍼灸の介入は前述の体重と耐糖能の変化に加え、子宮内膜の厚さや形態の改善やホルモン値の正常化にも貢献し、2年ぶりの移植がようやくできました。
1年僅かの鍼灸治療を行なった結果、自覚症状や基礎体温の乱れの改善、採卵の好成績、耐糖能の改善、子宮内膜状態の向上における様々な変化をもたらし、妊娠の成立や妊娠中母体・胎児の健康維持、無事出産に繋げたと示されています。

出産後にいただいたメッセージを読み非常に幸せな気分になりました^^。
本症例のように、様々な身体の原因により難治性不妊症の患者に対して、東洋医学(鍼灸・漢方・薬膳・生活指導…)の治療法により体質改善を図り、西洋医学におけるエビデンスの向上も確認でき、妊娠・生児獲得の時間の短縮も期待できます。
これから妊娠を考えられている方、現在妊活中の方、お悩みがありましたら、お気軽にKAKA鍼灸院・嘉心薬店までご相談ください。お待ちしております。
